第十三話 高い所に流れる水
むかしね このいぜな島の千原(センバル)に逆田(さかた)という
不思議な田んぼがあったさあ

それはね 雨がながーい間降らずサーイ(かんばつ)がこの島をおそった時もね
その田んぼだけは いつもまんまんと水をたたえていたというよ

それだけではない その田んぼは 他の田んぼより高い所にあるにもかかわらず

不思議 不思議 島の人たちはいつもそのはなしでもちきりだったね

この物語はね この田んぼのことから始まるはなしなんだ

この田んぼの持ち主は金丸(かなまる)という名の若者だったよ

やさしいこころをもっていて しかも働き者でね

島では鳥も歌いだしてホメちぎる評判の若者さ

なくなることのない田んぼの水には金丸も不思議におもっていてね
だけど どうしてなのかまったくわからなかったさぁね

たくさんいる鳥が田んぼに水を運んでくれているんだろうか
などと考えたりしてたね 金丸も…
周囲に田んぼのある島の人たちは そのうち
金丸がこっそり水をぬすんでいるんじゃないか などなど
コソコソうわさばなしをいうようになったさぁね

風のうわさは島じゅうに広がった
そんなこんなで はなしはマチヴイ(こんがらがって)
金丸はふるさとにもいづらくなってね

ある老人のお告げもあり 島を出て行くことになったんだねぇ
その老人のお告げにしたがって アハトゥチ(夜明前)島を後にするんだねぇ

そのとき 舟出した海岸が「アハシチバル」といってね 島の東にあるさぁ
朝日が出始め 明るくなりかけた頃に出発したところから
アハシチバルの名はつけられたらしいよ ホントのこと

そうそう その近くに「クーイリ」というところがあるんけど
なんと その舟出した時の足跡も残っているらしいさね

それから金丸は沖縄本島のいろんな所に行くんだけどね
誠実な人柄もあって 行く先々 立ちどころに人々にしたわれたらしいよ

まあ どこに行っても働き者をねたむ人はいるからね
泣く泣くその村を出て行くことも またまたあったんだよね

最初のヤンバル(国頭)(クニガミ)ではカンジャー(鍛冶屋)の仕事で 村の人たちにたいへん尊敬されたはなしだね

そのつぎは 西原の(ニシバル)の内間(ウチマ)というところに行ったのだけれども
そこでは漁業にせいを出して 村の人たちにたくさんの魚を分け与えそうだよ

そんなこんなで 金丸はウマンチュ(人々)にこよなく
愛されるようになんったんだね

その評判はね 首里の都にも伝わってね
御主加那志前(ウシュガナシーヌーメェー)(王さま)にめしかかえられた
そして とうとう金丸は王さまになった はなしなんだ

王さまの名前は尚円王(しょうえんおう)というよ
これが金丸が王さまになるまでのはなしさ
                      これで おしまい

えっ?金丸の田んぼがいつも水をたたえていたのはなぜかって?
それはね ほら 金丸はやさしく働き者で 美男子だったから
島のミヤラビ(娘)たちにすごくしたわれていたでしょ
そういうこともあってミヤラビたちが 毎晩毎晩
かわりばんこに 金丸の田んぼに 水を運んでいたというわけさぁ
                      ほんとに おしまい

                  戻 る