第十二話 娘は宝
むかしむかしのねぇ 大金持ちの さむらいの家のはなし

ミィートゥンダ(夫婦)は とても仲がよくてねぇ
そのうえ かしこいチュラハギ(美しい)娘もいたんだ

とにかく なに不自由のないくらしをしていたわけだねぇ

でも ティーチ(ひとつ)だけ さみしい おもいをしていることがあったんだんよ

それは 長いあいだこのミィートゥンダには
後つぎのチャクシ(長男)に恵まれなっかたというわけなんだ

ある日 主人がためいきをつきながらこういった

「これは※フンシー(風水)が悪いせいにちがいない」

妻のほうもあいづちをうちながら

「アホーヤ(それなら)村のユタ(霊媒者・預言者)にみてもらいましょう それがいい」

と妻は自分でいい出し 賛成も自分でしたんだねぇ

いつも ものしずかなユタばぁさんは この日にかぎって とても恐い顔でどなるようにいったわけさぁ

「おまえたちの家がワッサン(悪い)一日も早くぜんぶやきはらってしまいなさいよ ワハティー(わかったねぇー)」

といったかとおもうとユタディマ(礼金)を押し込みながら
今にもころばんばかりに帰って行った

妻は 家を焼き払ったら アチャー(明日)から私たち 
どうしたらいいのと騒ぎ出したさぁ

「ユタのいうことは絶対聞かない方がいい ちっともあたらないんだから」

妻は自分が最初にユタを頼んだのも忘れて涙ぐみながらいったさぁね

「アーバァーイ ヌーテェン イサヤー」(ああ なんてことをいうんだ) ワッター(私たち)に長男をさずからないことがあると
トートーメー(いはい)がとだえるばかりか  
首里の王さまにも あとあと ごほうこうできなくなるんだぞー」

主人は気がくるったように 止める妻をふりはらい 
とうとうりっぱなお屋敷に火をつけてしまったのさぁ

その日から 家族三人は ほんとうに路頭にまよってしまったねぇ

「自分で自分の家に火をつけるなんてウフフリムン(とっても気ちがい)だよ」と

くちぐちに世間の人たちはいった

そのうち ヤーグナ(家族)は村にいることができなくなってねぇ
海を渡り旅にでたさぁねぇ

いく日も歩いて歩いて そのうち人通りの多いにぎやかなところにきてねぇ

立派な姿のサムレー(おさむらい)や女の人が身にまとっているきれいな着物をみていると むかしの自分たちのことをおもい出してねぇ とても悲しくなってしまった

それに ひもじさと疲れで とうとう道端でうずくまってしまったんだねぇ

そこで 肩をヨンナー(ゆっくり)たたく人がいるんだねぇ

はなしを聞くと
「自分は通りがかりの首里のサムレーだが
御主加那志之前(ウシュガナシーヌメェー)(王さま)があなたの娘さんを一目みて気に入られた ついてはお城まで来てはもらえないか」といったんだねぇ

娘はとても美しく 気立てもやさしかったので 御主加那志之前は ますますその娘を気に入り 首里に家を与えたというわけさぁ

それから このヤーグナはデージナ(とても)しあわせに暮らしたというさぁ

そんなことがあってから 家内に美人の娘がいると いつかきっと
いいことがあるとおもわれているね この村では……
                      これで おしまい

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