第十話 三人兄弟の話
むかしむかし 仲順大王(なかじゅんウフシュー)という
大金持ちのおさむらいがいた

だいぶ年もとり 病気がちで床につく日が多かったわけだねぇ

大主は三人の男の子をもうけ 今までりっぱに成長していた

それぞれ兄弟はお嫁さんをもらい みんなしあわせに暮らしていたわけ

大主は自分の命があまり永くないことをさとっていてね
お見舞いにくる子どもたちをみつめる目はさみしそうだった

でも ひとつだけやらないといけないことがあったわけ
それは ドッサリとある財産を どのように子どもたちに
わけようかということだわけさぁ

そんなこんなで ある日大主は 三人を自分の寝床に呼び このようにいった

「ヴォーイ おまえたち 私はもう永くはない命だ
今までいろんなぜいたくをしてきたが ついては最後のぜいたくがしたい」

こころなしか 元気をとりもどし はなしを始めたんだね

長男と次男は またまた タンメー(親父)のわがままが始まったとばかりに聞いているふりを決めこんだ

三男は タンメーの命が残り少ないのをとても悲しくおもい にじむ涙を気づかれないように タンメーのはなしに耳を傾けたねぇ

「かねてから おまえたちのアハングヮ(赤ちゃん)がデージナ(とても)うらやましい…毎日若い母親の乳を飲めるのだからなぁ…」

タンメーは今度は悲しそうな顔をしていうわけ

「ところで最後のぜいたくだがアハングヮの乳を毎日飲んでみたい…そのためにアハングヮは死ぬかも知れないがな どうだ
そうすれば 私の病もなおるかも知れない」

「キシヨイ!」長男と次男は とんでもないとばかりに はきすてたわけさぁ

「なにをいうのですか そんなことをしたら村じゅうの笑い者です
絶対にできません ナラン ナラン」

そそくさと立ち上がりブツブツいいながら ふたりは帰って行ったさぁ

だまっていた三男は口を開くとこういった

「わかりました タンメー とにかくあなたに元気になってもらえることが私たち夫婦の願いです アハングヮが死んでしまてっもミー(新しい)アハングヮをまた育てることにします
タンメーはこの世にひとりしかいません おっしゃる通りにしましょう」

あいかわらず さびしそうな顔をした大主は

「死んでしまうアハングヮの墓はな 裏山の三本松の東のはじっこにつくりなさい」

といったかとおもうと ふとんをかぶりなおして寝てしまった

家に帰って 三男は女房にそのことをはなすわけだね
すると女房はアハングヮを強く抱きしめながら 大粒の涙を落としたのさぁ

してからに アハングヮのお墓をつくろうと裏山に出かけた

して タンメーのいうとおり 東のはじっこを掘り始めたわけさぁ

あふれる三男の涙は クワを伝わって土のなかにしみこんでねぇ
女房のすすり泣く声も小鳥の鳴き声とともに 山にとけていった

「アバーイ ウリ ヌーガワイ」(あれ これはなんだろう)
土のなかから大きな箱がでてきたわけだねぇ 
なかを開けてみると
大主が大切にしている宝物がいっぱい入っていた

三男夫婦があわててタンメーのところへ行って事情を聴いてみると

「私は三人の兄弟のまごころを知りたかった
三男よ おまえはほんとうに孝行むすこだ
私の財産はぜんぶおまえたち夫婦のものだ
アハングヮも大事に育てて しあわせにくらしなさい」

大主は目を細くしていったわけさぁ

大主の墓は三本松の東のはじっこにつくられ 
三男夫婦はお祈りをかかすことがなかったんだねぇ
                              おしまい

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