第九話 猫顔(マイジラー) 
ンカシンカシ アイ(すごく)ンカシ

ある山に父親と娘が住んでいた

娘はサッコー(めっぽう)美しくこの世のものとはおもえないほどのチュラハギ(美人)だった

この親子のちょっと変わったことといえば
大のマイ(猫)好きで まるで人間みたいに つまりは家族みたいにカナハ(愛する)するわけだね

そのうち 父親は年をとり 死んでしまうのだけど
マイも後を追うようにグソー(あの世)にいってしまったねぇ

ひとり残された娘は 父親とマイのお墓を 何日もかかってつくりあげたのさぁ

そうして 毎日毎日 泣いて暮らしていたわけだが
ある夜 裏庭でマイの声がしたものだから 娘は大急ぎで
庭の方に出てみたねぇ

サヤカテル(明るく照る)お月さまで マイの影はみえるけれども
姿はどこにもみあたらないんだねぇ

「おまえなのかい 私のところにもどってきたんだね
 さあ 早く姿をみせておくれ」
娘は頼むようにいったのさぁ

それでも マイの声だけが裏庭に響くだけでねぇ

そのうち不思議にも マイの声が人間の声に聞こえてきたんだ

「ミャオー 娘よ いつまでも泣いてばかりじゃいけない
 早く立直り 元気に暮らすようにしなさい」

それを聞いた娘は ますます声を出して泣いてしまってねぇ
「シカマ(早朝)の陽が昇ったら 海も山もこえた
上がり(東)の方へ旅立ちなさいよ」

娘はやっと泣きやみマイのいうことに耳を傾けてたねぇ

「でも ひとつだけ聞いてほしいことがある
ナマハラヤ(これからは)人の前に出る時は 仮面をかぶるようにしなさい絶対に人前でその仮面をとってはいけません
仮面は私の墓の側にあるチャーギの枝にかけてある」

マイがいい終わるやいなや ゴォーッゴォーッと
強い風がアガリ(東)から吹いたねえ

そして その風に連れて行かれるようにして お月さまも顔を隠した

したら いつのまにかマイの影もなくなっていたんだね

ナァーチャ(翌日) 娘は陽が昇るのを待ってからに 
アガリ(東)の村へ旅立ったのさぁ

もちろん顔にはマイがいったとおり 仮面をつけたままさぁ

その仮面は世にも恐ろしいもので 
一度みたら顔をそむけたくなるようなものだったさぁ

それでも娘はマイをウナイ(姉妹)のようにカナサ(愛して)していたから仮面はちっとも気にならないねぇ

シカマのティーダ(太陽)が顔を出すとともに家を出た娘は
海をわたり 山をこえ そのうちとても疲れはて
歩くこともできなくなるほどだったねぇ

してからに 美しい夕陽も姿を隠そうとしているユマンギィ(夕暮れ)だった

一つの村がみえてきたさぁ

そこには 大きな屋敷があり たくさんの人が忙しそうにしていた
娘はとりあえず そこの家の門をたたくことにしたわけさぁね

「オキッヨォーラー(あれれ)!おまえは人間か マジムン(魔物)か」

娘を最初にみつけた奉公人らしき男は 大きな声をあげ
ドゥマングィタ(ビックリした)さぁねぇ

「私は怪しいものではありません ある事情でこんな顔になってしまいました

どうかここで働かしてもらえませんか」
娘は疲れていたけど 最後の力をふりしぼってこんなにいった

集まってきた使用人たちは
「お前なんかがくるところじゃない かえれ かえれ」
と大合唱を始めたねぇ

娘は仕方なく屋敷を出ようとした

その時「これ 娘 さぞこれまでつらいことがあったのだろうなぁ
ここでよかったら働きなさい」という声がしたんだねぇ
その人はなんとこの屋敷の主人だったのさぁ

それからというもの 娘は脇目もふらずに働いたよ ほんとのはなし

主人の息子も マイジラーを最初さけていたけど その熱心な働きぶりと誰にでも優しい人がらに こころをひかれるようになったのさぁ

してからに ある日主人は息子の嫁をきめようと娘たちを集めた

息子が「マイジラー(猫顔)の娘がいい」とまよわずにいうと
みんな とびあがってびっくり そして大騒ぎしたんだねぇ

主人もマイジラーの働きぶりをよく知っていたから ただ うなづいた…

その晩 娘が眠っていると またまたアガリ(東)の方から
ゴォーッ ゴォーッと強い風が吹いてきたわけ

そして お月さまとつれてやってきたマイの影がこういったのさぁ

「娘よ そろそろ仮面を外す時がきたよ これからはうんとしあわせに暮らしなさい」 

娘は黙って マイの影に手をあわせた

翌日主人と息子はマイジラーの本当の顔をみてびっくりしたねぇ

「アバァーイ ヌーグヮ ウントゥ チュラハルワイ」
(なんてきれいな娘だろうか)

娘からくわしいはなしを聞いた主人と息子は マイジラーのふるさとにあるマイと父親のお墓をチビラシク(りっぱに)たてなおしたねぇ

それからマイの命日には いつまでもいつまでもウチャトォー(お祈り)をかかすことはなかったそうだよ
                                おしまい

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