美しいおはなし
いぜな島の透明な海に 溶けていくような 美しいおはなし
島の住人たちの心あたたまる 言い伝えは しんみりと
人の深い愛を運んでくれます
この豆本で 島の人情にちょっぴり触れてみてください
                     うすく村拝
第八話 貧乏(ヒンスー)と金持ち(ウェーキ) 
むかしむかしのはなし

このいぜな島に シカルタ(すごいくらいに)金持ち(ウェーキ)がいたね

家もごてんのよう…畑も海の広さくらい…
土地も山をたくさんならべるくらい…にね

ある日 ひどく貧乏(ヒンスー)の男が ウマチー(お祭り)にね
おそなえをするものがなくて 困りはてながら 金持ちの家の前を
通りがかったらしいさぁ

ちょうどその前に 自分の家の何倍もある広さのイモ畑があったんだね

貧乏はなにをおもったか こっそり金持ちの畑に入り込み
イモをほり始めたさぁ

そして ふところに少しばかりのイモをほうり込み いえじをいそいだね

その一部始終を近くのあぜ道でみていた金持ちはね
後で貧乏の家にどなりこんでやろうとおもったさぁ

とにかく その場は気を静めて家にそのままもどったんだ
明くる日の晩 金持ちは貧乏の家に出かけたね

隠れながら家のなかのようすをうかがってみたさぁね

きたないふくを身につけた貧乏家族は トートーメー(仏壇)にむかって拝んでいたらしいね

もちろん金持ちの畑からぬすんだイモは 仏壇にホクホクとゆげを出しながらそなえられていたんだよ

金持ちは そのイモをみたとたん 
ナァ ワジワジー(もう おこって)したね

してからに 家のなかに踏み込もうとしたんだ

その時ね 貧乏がね トートーメーにむかって 手を合わせ
ブツブツいっているのが聞こえたらしいさね

「ファーフジタイ(ご先祖さま) 今日のウサギムン(おそなえもの)ができたのは となりの金持ちのおかげですドーディン(どうか)となりの家がもっともっと栄えますようにウートォ トォー」

それを耳にした金持ちは ただうつむいた……

そのまま家に帰って行ったらしいさね

だれも知らないけれど その時 金持ちは今までのなかで
一番しあわせそうな顔をしていたらしいよ
                              おしまい

                   戻 る