第七話 猿になった金持ち(ウェーキ)
むかしむかし あるところに ヒンスー(貧乏)だけれども
マクトゥー(正直もの)のタンメー(おじいさん)と
ハンシー(おばあさん)が暮らしていたわけさぁ

となりには ウェーキ(金持ち)だけれども 意地悪ものの
タンメーとハンシーがまたまた暮らしていたわけさぁ

ある正月に 正直もののタンメーとハンシーは
家に食べるものがなんにもないので
となりへいくらか恵んでもらおうと出かけて行ったんだね

もちろん意地悪もののタンメーとハンシーが
ほどこしをしてくれるはずはわないわけ

「キシヨォーイ ナランシガ(ふん そんなことはできない)
 貧乏人(ヒンスームン)にくれるものは これっぽっちもないんだから

シッ シッ あっちへ行け シッ シッ」

バタンと意地悪に閉められた戸のひびきは 
冬の空に悲しいうたを歌っていたねぇ

しょうがないので 正直もののタンメーとハンシーは家に帰り
火にあたりながら静かに正月を過ごそうとおもったのさぁ

「トントン トントン」

誰かが表で戸をたたいているんだねぇ

「エーイ サリ(おじゃまします)

私は神さまです 
貧しいけど正直もののあなたたちに ほどこしをしましょう」

ポカンと口を開けたままのタンメーとハンシーは
神さまがつぎにおっしゃることを聞いていた

「トォーアソー ナァーヴィ シキリ」(さぁ それじゃナベをかけなさい)

いわれるままのタンメーとハンシーは 目をシロクロさせるばかりでね

そして 神さまが天井を見上げたとおもうと
ヒラリヒラリと細い糸のようなものがナベのなかに落ちてくるわけ
すると なにもないはずのナベにはおいしそうなクワッチー(ごちそう)がイチャハン(ドッサリコ)にえたぎっていたんだねぇ

「ヘーク カモー(早めに食べなさい)若御飯だよ」

神さまは一言だけいって小さく笑ってねぇ

タンメーとハンシーは これまでみたことも食べたこともないクワッチーにドゥマングィテ(おどろいて)しまったのさぁ

そして ただただ クワッチーを口にモグモグさせるばかりだった

「若水でお湯をわかして ふたりして浴びなさい」

今度は神さまは このようにいうのさぁね

すると タンメーとハンシーはみるみるうちに 若者になったさぁ

初めはびっくりしたふたりもそのうち 
メーバー ウスイーファン(前歯を押さえきれないほど)喜びを隠しきれず飛びあがってカチャーシー(即興ダンス)を踊り始めたんだ

するうちに いつのまにか神さまもいなくなってねぇ

ふたりは手をあわせ ニフェーヤヴィタン(ありがとうございました)といったんだねぇ

つぎの日 若がえったふたりは 金持ちのタンメーとハンシーに
きのうの夜のできごとを 一部始終はなしたさぁねぇ

「ユクサー ヒヤー(うそつきめ)」といいながらも
若くなった正直もののタンメーとハンシーをみて
うらやましくおもわないわけにはいかなかったさぁ
そして くやしくもおもったさぁねぇ

その翌日 金持ちのタンメーとハンシーの家にも
「トントン トントン」と戸をたたく音がしたねぇ

「エーイ サリ 私は神さまです
金持ちだけど意地悪なあなたたちにほどこしをししましょう」

いい方が気に入らなかった意地悪のタンメーとハンシーのだったけれどもこの際がまんしたよ

ふたりは正直もののタンメーとハンシーと同じように 
いっぱいのお湯をわかして体じゅうにかけたんだ

すると タンメーは猿になり ハンシーは鳥になってしまい
西の方に行ってしまったんだよ

それから 正直もののハンシーとタンメーは しあわせに暮らしたというけど

ある日一匹の猿がやってきて「ワーヤー ワーヤー」(私の家 私の家)とうるさく泣き叫ぶんだね

そればかりか 畑は荒らすはせんたく物をよごしたりで
いたずらのかぎりをつくすさぁねぇ

困ったマクトゥーのタンメーとハンシーは 神さまに相談したねぇ

「猿がいつも座るマーイシ(かたい真石)をチューヂューク(とっても強く)焼いてマッカラー(真っ赤)にしなさい」

神さまのいうとおりにすると なにも知らないさるはマーイシに座わるとびっくりぎょうてん 飛びあがって逃げて行ったさぁ

その時から おさるのマイ(しり)は赤くはれあがったままだというよ
                           おしまい

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